糖尿病とは血液中のブドウ糖(血糖)濃度が
正常より高くなり、その状態が続いてしまう病気です。
糖尿病になる原因には、遺伝と環境の両方があると言われています。しかし、どちらの要素が強く影響しているかは、その人その人によって異なります。つまり、家族歴のある人(身内に糖尿病の方がいる人)はもちろん家族歴のない人も、暴飲暴食や強いストレスが続くと、糖尿病になる可能性があるということです。
血糖が高いだけでは、症状が出ることはあまりありませんが、放っておくと合併症を引き起こす可能性があります。
高血糖が持続することにより、特徴ある症状(口渇、多飲、多尿、体重減少、易疲労感)が出現しますが、それ以外の場合は自覚症状に乏しく、本人も気が付かない場合が多いです。
糖尿病を予防するために
肥満がある人、家族歴のある人(身内に糖尿病の方がいる人)、妊娠中に血糖異常を指摘された人は、将来糖尿病を発症しやすいと言えます。
下記の食事療法・運動療法を、あらかじめ行っておくことで、ある程度予防することが可能です。
糖尿病の初期症状
- 喉が渇く
- 飲水量が多い
- 尿量が多い
- 体重が減る
- 疲れやすい
- 目がかすむ
- 手足がしびれる
- 空腹時に怒りっぽくなる
- おなかがへる
- 陰部がかゆい
※ただし、これらの症状がないことも多い。
(糖尿病治療の手引き2020・日本糖尿病学会編より)
糖尿病型:血糖値((空腹時)≧126mg/dL、OGTT2時間≧200mg/dL、随時≧200mg/dLのいずれか)
HbA1c≧6.5%
※)口渇、多飲、多尿、体重減少などの糖尿病に特徴的な症状
日本糖尿病学会:糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告(国際標準化対応版)、
糖尿病55(7):494、2012による一部改変
糖尿病かどうかの診断は簡単で、血液検査と尿検査を受ければ、その日のうちに診断がつきます。
中には何とも言えないタイプ(境界型糖尿病もしくは初期の糖尿病)と診断される場合があるかもしれません。
そういう方は後日、さらに精密検査(ブドウ糖負荷試験;空腹時採血の後にブドウ糖を飲んで、その後数回採血をして血糖の変動を記録する試験)を受けて頂き、正しく診断することが可能です。
よく来院された患者さんから、「以前、"糖尿病の気(け)"があると言われたのですが・・・」という言葉を耳にしますが、"糖尿病の気(け)"という表現は正確ではありません。
"正常"なのか"境界型"なのか"糖尿病"なのか正しく診断して、正しく治療することが大切です。
糖尿病治療の基本であり、運動療法とうまく組み合わせてを行うことで、糖尿病が治る(寛解する)こともあります。
一方でライフスタイルの多様化から、画一的な食事療法が受け入れ難いこともしばしばです。
また「食欲」といった、人間本来の「欲望」に関わる内容であるため、最も調整や継続が難しい治療法であるとも言えます。
当院では、患者さん御本人の嗜好・生活サイクル・活動量・経済状況などを考慮し、持続可能な方法を提案致します。
GIVE POINTS
日本糖尿病学会は
下記のポイントを挙げています
- 腹八分目とする。
- 食品の種類はできるだけ多くする。
- 動物性脂質(飽和脂肪酸)は控えめに。
- 食物繊維を多く含む食品(野菜・海藻・きのこなど)を摂る。
- 朝食・昼食・夕食を規則正しく。
- ゆっくりよくかんで食べる。
- 単純糖質を含む食品の間食を避ける。
栄養指導のながれ
管理栄養士による栄養指導を受けることが可能です。
但し予約制ですので、受けたい方は診察時にお申し出ください。
こんな方はご相談ください
現在、自分がやっている食事療法に、自信がない方。
他人から噂で聞いた、もしくはテレビやネットで聴いたり観たりした食事療法に関する情報が、正しいかどうか、自分に合っているかどうか確認したい方。
自身で購入しているサプリメントについて、服用を継続しても良いか知りたい方。
などなど、食事療法に関する悩みは、非常に多いと思います。
分かる範囲でお答えしますので、何でも気軽に御相談ください。
PHYSICAL ACTIVITY
運動療法について
糖尿病治療の基本であり、食事療法とうまく組み合わせて行うことで、糖尿病が治る(寛解する)こともあります。
しかし「運動」というと、苦手意識を持つ方や、時間やお金がないからできない、と思う方もいるかも知れません。
「日常生活における活動量を増やす」という風に、考えても良いと思います。
例えば、クルマ通勤だったのを電車通勤に変更する、エレベーターを使わず階段を使う、宅配サービスを止めて自分で買い物に行く、など。
EXPECTED EFFECT
血糖に対する効果以外に、
下記のような効果も期待できます
- 減量効果がある。
- 筋肉量の維持、骨粗鬆症の予防に有効である。
- 高血圧や脂質異常の改善に有効である。
- 心肺機能を改善する。
- 運動能力が向上する、転倒予防になる。
- 爽快感、活動気分などリラックス効果がある。
運動療法を行ってはいけない方
但し、病状によっては、運動療法を控えた方が良い場合もあります。
- 血糖コントロールが極端に悪い場合。
- 網膜症(眼の合併症)が進行している場合。
- 腎不全の状態にある場合。
- 心肺機能に問題がある場合。
- 骨・関節疾患がある場合。
- 急性感染症(肺炎や尿路感染症など)の場合。
- 糖尿病壊疽の場合。
- 高度の糖尿病性自律神経障害
(立ちくらみなど)がある場合。
どんな運動をすれば良いの?
「日常生活における活動量を増やす」という意味では、「どんな運動でも良い」ということになります。
特に自身の好みや体調に合わせて、楽しみながらできると一番良いと思います。
世界糖尿病連合(IDF)は、水泳やサイクリング、ウォーキング、ダンスなどの運動を例に挙げています。
しかし、血糖コントロールを超えた効果を期待するのであれば、目的に応じて、運動のメニューを考えなければなりません。
一般的には、脂肪を燃焼させてダイエット効果を狙うのであれば有酸素運動、筋肉量を増やし転倒を予防したいのであればレジスタンス運動(筋トレ)を中心にすれば良いということになります。
COMPLICATIONS
糖尿病の合併症について
糖尿病は全身性疾患です。
従って糖尿病の合併症も、全身に及びます。
急性合併症(急激に短時間で起こる合併症)と
慢性合併症(長い時間をかけてゆっくりと起こる合併症)とに分類できます。
急性合併症には、高血糖昏睡(血糖が高すぎて意識障害が起きる)や
種々の感染症(肺炎や尿路感染症など)があります。合併症のほとんどは、慢性合併症です。
ずっと以前から知られているのは、三大合併症(神経障害・網膜症・腎症)と呼ばれています。
いずれも細い血管(毛細血管レベル)が、長年の高血糖により傷害を受け発症します。これらは一旦発症しても、血糖コントロールを改善させると、治る可能性があります。しかしあるレベルを超えてしまうと、治らないと言われています。
一方、太い血管の合併症(動脈硬化)も知られており、脳梗塞や心筋梗塞・狭心症・末梢動脈疾患がこれに相当します。高血圧や脂質異常症、喫煙など、他の危険因子があると、加速度的に発症が増加します。
逆の言い方をすると、それら他の危険因子をなくしておくと、発症しにくくなります。しかし血糖コントロールの改善だけでは、予防しにくいとも言われています。
また最近はそれ以外にも、合併症とまで言えないが、併存しやすい疾患が分かってきました。骨粗鬆症・歯周病・認知症・がん・うつなどです。
糖尿病神経障害
高血糖が持続すると、神経にポリオールという物質が貯まり、神経を傷害します。また神経にも毛細血管が走っており、血管まで傷害されると、より神経障害が進行します。神経障害には感覚神経障害と自律神経障害があり、運動神経障害はまれです。
感覚神経障害は、知覚鈍麻から始まります。つまり最初、患者さんはこのことに気付きません。
検査を受けて初めて分かるのです。
さらに進行すると、ジンジン・ピリピリした痛みを感じるようになります。しかしこの頃には、かなり進行していることになります。両足に左右均等に起こることが多いです。
自律神経は、自分の意志と関係なく内臓の働きを調整しています。
したがって自律神経が障害されると、内臓の不調が起こりやすくなります。
具体的には、胃もたれや便秘・下痢などの消化管障害、立ちくらみやふらつきなどの調節障害、排尿・勃起障害などの様々な症状です。
糖尿病網膜症
網膜というのは、眼の一番奥にあるスクリーンの役割を果たす膜のことです。
網膜にも毛細血管が走っており、この毛細血管が高血糖により傷害を受けると、糖尿病網膜症が発生します。
微小出血のみの場合は、単純性網膜症に分類され、血糖コントロールを改善させると、治る可能性があります。
しかしさらに進行し、毛細血管が増殖した場合、増殖性網膜症と呼ばれます。
増殖した毛細血管は非常に脆く、出血しやすいと言われています。大出血が起きてしまうと、レーザー光線で破れた血管を焼く必要性が出てきます。
レーザーを当てた網膜は、神経細胞が死んでしまうので、その分視力が低下します。最悪の場合、失明してしまう恐れもあります。
糖尿病腎症
腎臓は握りこぶし大の大きさで、我々の背中側に左右1個ずつあります。
毛細血管の塊であり、血液をろ過して、体内の余分な水分と老廃物から尿を作り、体外へ排泄する臓器です。
腎臓の毛細血管が高血糖により傷害を受けると、血管の壁に小さな穴が空きます。
穴が小さい間は、アルブミンというタンパク質のみが、その穴から漏れて尿中に出てきます。しかし、糖尿病腎症が進行して、血管の壁の穴が大きくなると、それ以外の大事な物質まで尿中に漏れることになります。
さらに進行して腎機能が低下すると、腎不全と呼ばれる状態になります。
尿が作られなくなり、体内に余分な水分や老廃物が溜まります。
浮腫(むくみ)や肺水腫(肺が水浸し)、尿毒症といった状態になると、余分な水や毒素を人工透析で体外に出してやるしか、手段がなくなってしまいます。
動脈硬化(脳卒中・心臓病)
太い血管も、長い時間をかけて傷害されていきます。
脳卒中は、血管が破れる脳出血と血管が詰まる脳梗塞とに大別されます。
糖尿病患者さんに多いのは脳梗塞であり、発症すると手足に麻痺が起こったり、急に言葉がでなくなったり、物が二重に見えたり、意識を失って倒れたりします。
心臓病の中では、特に虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)に注意する必要があります。
胸が締め付けられるような痛み(狭心痛)を感じることで発見されますが、神経障害が進行していると自覚症状がない場合もあるので注意が必要です。
いずれの病気も、その他の危険因子(喫煙・LDLコレステロールの高値・高血圧)もまとめて治療することが重要です。